2012年4月20日金曜日

NetCommons 公式マニュアル

実用書なので、読書感想文という表現は似つかわしくないですが、解説対象のCMSが気に入ったので紹介します。

 勤務先の加盟する団体のサイトリニューアルに携わることになりました。現在のサイトはHTMLエディタで作成されたサイトです。このサイトは、社会に向けての広報機能に加え、より重要になのは会員向けの資料提供です。しかし、現在のサイト構成はHTMLページが樹形上に枝分かれしており、一つリンクを間違えると、目的の資料にたどり着けないという問題をかかえていています。サイトリニューアルにおいては資料検索機能の向上が求められていました。併せて、ユーザーが容易に操作できるユーザビリティの向上も求められていました。
まぁ、そういうことなら、SQLなどのデータベース上で機能する CMS(Contents Manegement System)だったら、ある程度そういう要求に応えられるでしょう、ということで主立ったCMSの導入を検討してみました。

私が実際に利用したことがあるCMSはXOOPSとWord Pressです。いずれも、一般向け情報の更新は、Webメールを送る要領で作業できるので、HTMLタグ打ちやHTMLエディタでページ作成->アップロードという作業からは解放されます。ただ、資料管理については標準機能だけでは、要求に応えられそうにありませんでした。もちろん、XOOPSやWord PressといったオープンソースのCMSには、サードパーティで様々な付加機能が用意されているので、資料管理の機能も付加することは可能です。ただ、サードパーティでの機能付加は、開発者の事情で開発が滞り、コアシステムのアップグレードに対応できないことがあるなど、安定性に不安があります。実際、勤務先のサイトはXOOPSで構築し、サードパーティで機能付加をしていたのですが、そういうトラブルには何度か見舞われました。
世界的にシェアの大きいWord Pressについても同様のリスクがありました。サイト構築の後の運用についてまで私が日常的に携わるわけではないので、そういう不安はできるだけ小さくしておきたいと考え、機能的にはWord Pressに似ていて、有償だけど一定のサポートが受けられるMovable Typeが無難かと思い、試験サイトを設置して加盟団体の担当者と試験運用に着手しました。

その矢先、昼休みに職場近くの書店でIT関連の雑誌を立ち読みしていたところ、NetCommonsというCMSについての小さな記事を目にしました。いままで、全く目にしたことがなかった名前だったので、とりあえず覚えて職場に戻り、ググってみました。すると、NetCommons とは国立情報学研究所で開発された国産CMSで、かつ無料。学術組織、教育機関、NPOでの利用を念頭に開発されたものだという。加えて、コンテンツマネージメントだけにとどまらず、グループウエア機能、eラーニング機能まで備えたパッケージであるということでした。直感的に「これだ!」と思いました。


早速、このサイトからダウンロードして試験サイトを建ててみました。これまで触ったCMSは、標準で備わっている機能は、ブログ機能や掲示板機能など数個程度だったのですが、このNetCommonsはサイトを構築した初期段階で三十数個の機能が搭載されています。それ故に、かなり大きいパッケージではあるのですが、これまで使ってきたCMSで「こんな機能が欲しい」とサードパーティから追加した機能のほぼ全てが、標準で装備されていました。たとえばWebアンケートであったり、ファイル・アーカイブ機能、メニュー機能、掲示板、検索フォーム、Webメール機能、スタティックページ作成、フォトアルバム機能、細かいものではアクセスカウンター等々。
急遽、Movable Typeから方向転換し、NetCommonsの導入に舵を切りました。現在、加盟団体の担当者と、多数ある機能を試しながら、サイトリニューアルに向け作業中です。目下の課題は、サイトデザインをどの程度まで凝るかということでしょか。

ただ、NetCommonsも、まったく不安がないわけではありません。このNetCommonsというCMSの開発がいつまで続けられるか、という根本的な問題です。開発元の国立情報学研究所は、大学共同利用機関法人で、国立大学法人と同様に運用経費の多くを、国からの運営費交付金に依拠する機関です。そして、これらの法人機関への運営費交付金は、2004年に国の一機関から法人へと移行してから、一貫して減額され続けています。さらに今年度以降は、震災復興財源捻出等々の理由から、これまで以上の運営費交付金の削減の検討が国会などで燻っている状況です。職業柄、国立情報学研究所がこういった困難を抱えているだろうことを推測できるだけに、NetCommons開発の継続性について、どうしても不安を覚えます。

まぁ、しかし、NetCommonsの導入に舵を切ったからには、NetCommonsの開発が末永く続くよう祈るばかりです。いや、祈るだけでは消極的すぎるでしょう。やはり、安定的に開発が継続されるためには、NetCommonsが広く普及し、世間や情報学研究所のステークスホルダーから評価される必要があるでしょう。故に、少しでも普及に資するところがあればと思い、このようなブログでも紹介するところであります。

2012年4月13日金曜日

読書感想文「暇と退屈の倫理学」

先日facebookで「暇と退屈の倫理学」という著書の紹介があり、なんとなく面白そうだったので図書館で借りて読んでみました。「 倫理学」という言葉を含むタイトルから連想するほど小難しさは少なく、比較的平易に書かれていて読みやすい本でした。ただ、この著書を評するには自分はあまりにも無知であるということがよくわかりました。著者は、哲学者をはじめ様々な分野の先賢たちの言葉を紹介し、評価、批判しながら著者の「暇と退屈の倫理学」を展開していきます。ここで紹介されるラッセルもハイデッガーもマルクスも、ユクスキュル(誰じゃそれ?)の著書を私はろくすっぽ読んだことありません。著者が先賢の言葉を紹介している部分も「…と著者は理解している」と留保をつけざるを得ない。というかそういう留保をつけた方がいいと思いました。著書全体が先賢の言葉との掛け合いを、読みやすく表現しているので、よもすると先賢の著書を読んでもいないのに「知っているつもり」になってしまいそうです。

私が特に印象に残ったのは、浪費と消費の対比部分です。「浪費は生活に豊かさをもたらす。そして、浪費はどこかでストップする。それに対して消費はストップしない。」「消費者が受け取っているのは、食事という物ではない。その店に付与された観念や意味である。この消費行動において、店は完全に記号になっている。だから消費は終わらない」

職業上、非正規雇用問題や労働条件悪化問題に接する機会が多いのですが、以前からこれらの問題は、どこかのワルモノよってもたらされているのではなく、私たち自身の生活様式が、これらの問題を生み出し、負の循環に陥らせているのではないかと、そこはかとなく感じていました。著者は浪費と消費を分けて考えることを提言し、「消費は限界がないから延々と繰り返され、延々と繰り返されるのに満足がもたらされないという先ほど指摘した悪循環…[中略]…消費社会は満たされないという退屈を戦略的に作り出し、人々をその中に投げ込むことで生き延びていると言えるかもしれない」と主張している部分に妙に得心してしまいました。